クチナシ おじさん。 #1 みんな→クチナシおじさんの小話

【ポケモンSM長編創作(SS)】クチナシ、初めて別空間の写真に大困惑

クチナシ おじさん

「違法売春動画?」 事の発端はその単語から始まった。 ペラップみたいに相棒が言った言葉をそのまま返せば相棒はそうだ、と真剣な顔で頷いた。 ~ 売春男と警察官 ~ 分厚い束をこちらに向かって差し出し、丁寧にホッチキスで閉じられた自分用の冊子を捲りながら話し出す。 「あぁ、やっと居場所を突き止められたようでな。 急だが明日の夜9時にはその事務所に突入するという話らしい。 」 「本当に急だな。 まぁ、この組織だから作戦はキッチリと考えてはいるんだろうが………その、違法売春って未成年がやらされてるとかか。 」 「ほとんどがそうらしいな。 」 「ほとんど?」 ほとんど、とはどういうことだろうか? だいたい、売春自体が犯罪として規定されているのにほとんど、とは一体、どういうことなのか。 「ほとんどが未成年のなか、一人だけ成人越えの男がいるんだが…その子はタチが悪い。 」 「なんで。 」 「壊すからだ。 」 「何を?」 「ヒトを。 」 「……………。 」 つまり、その成人済みのヤツが壊すまで相手を抱き潰し、事務所はそれを儲けた金で地元の警察官を買収、そして隠蔽。 だから、今回の作戦も隠蔽工作していた警察官をしょっぴいて全て吐かせた、ということだ。 しかもかなりキワドい方法を使って。 やだねぇ、この組織。 「んで、何でその話を俺にするんだよ。 」 「それはもちろん、事後処理するために行くからだ。 」 「そんなモン、地元の鑑識とかに任せとけよ。 何で【俺たち】が行かないといけねぇんだ。 」 「人手不足なんだ。 仕方ないだろう? それにボスにはお前も行くとすでに言ってある。 」 「事後報告か、この野郎。 」 色々とムカついたので先行く相棒の背中を蹴っ飛ばす。 バランス崩して壁に顔面を強打したのを見て多少なりとも心が軽くなったから今日はここまでにしといてやろう。 『…………しかし、』 売春、か。 喫煙コーナーに設置された机に先程渡された冊子を置いて表紙を見る。 この世界で売春は禁止されているのは確かだ。 それは法律で定められている。 しかし、いくら法律で定められ、警察が動いても世の中にはポルノ雑誌や売春動画は需要があったりするから、今回のところのように隠れながら制作して売買する輩もいる。 未成年の成熟してない裸体に惹かれる者も少なくない、ということだろうが………… 「一人だけ成人、しかもクセが強い………ねぇ。 」 身元もとっくに分かっているようで、ファイリングは完璧のようだ。 要確保だとか保護対象だとかのページをすっ飛ばしてその成人した奴のデータがあるページを捲る。 資料の上側には【危険人物】の文字が仰々しく書かれていた。 「……………これまた、スゲェな。 」 隠し撮りされた写真を見るがなかなか屈強そうだ。 白い鳥の巣のような頭に紫のアイシャドウ、額にはデカいサングラスに首もとにはドクロを模したと思われる大きなチェーンネックレス。 眉間には深いシワが寄せられ、周りを威圧しているようである。 腰までしか写真に収まってないが黒のパーカーに白いシャツに黒のパンツ、だろうか。 ポケットに手を突っ込んでいるがその手首に見える腕時計はブランド物に見えるほど金ぴかだ。 よく、これで1度も職質されなかったなと素直に思ってしまう。 売春ということはコイツも嫌々、従っている………ということだろうか? しかし、この男の目は。 「…………寂しそう、だな。 」 成人しているとはいえ、この男の目は明るい未来 売春している時点で明るくはないが に期待とか希望を抱いてる目ではなく、むしろ逆だ。 この世の中に絶望を抱いているかのような影が見える。 これは自分の勘だが。 「これぐらいの年なら、まだ希望を抱いていてもいいと思うんだが………」 紫煙と共に呟けば、ノックが聞こえ、顔をあげれば自分を捜していたのか息を荒げている相棒の姿があった。 煙草の火を灰皿に押し消し、捨てる。 分厚い資料を手に喫煙室を出ると案の定、捜したぞという言葉のあとにツラツラと小言を溢すヤツの言葉にテキトーに返事しながら長い廊下を歩いていく。 先程まで見ていた写真の男の名は"グズマ"という名前らしい。 花の中にその名前が含まれているのがあったような、と相棒の小言を聞き流しながら思い描く。 あとでネットで調べてみるか。 資料に視線を落とし、写真を見る。 そこであることに気付く。 いつもなら資料はその場で頭に叩き込んで会議のあとにゴミ箱に捨てるのだが未だに手に持って歩いている。 しかもこの危険人物のページだけを何度も見ている。 他人のことに興味のない自分が今までにない程、他人のことが気になっていることに気付いた。 珍しいこともあるものだ。 実際に会ったら、自分にどんな変化が起きるのか。 [newpage] ~ おまじない ~ 「あのな、おじさんは別に怪我するなとは言わないよ。 」 「…………。 」 「ただ、喧嘩でできた怪我や傷はおじさん、いただけないなぁ。 」 「…………ゴメンって」 「悪いと思ってるんならさっさと腕出せ。 痛くされても文句言うなよ。 」 そろりと差し出された手を強く掴んで俺はそう言った。 こちらの様子を窺うようなグズマのその目にほだされそうになるが、きつく言わないと目の前の男はすぐに自分の怪我を放っておいてしまうのだ。 それに気付いた時には膿んでいることもあり処置が大変だった。 掌にぱっくりと走る切り傷はナイフによるものかポケモンの技で付いたのかは分からないが、未だに血が滲んでいる。 新しくできた傷の他にもいくつもの小さな傷跡がグズマの手にはあって、その一つ一つがどうやってできた傷なのかをクチナシは覚えている。 自分よりも体が大きくて男らしいグズマを気にかけるようになったのはいつのことだろうか。 治療の際に消毒薬がしみて痛いと涙目で叫ぶグズマを見たときに可愛いと思ってしまうこともあったのを思い出す。 手際よくグズマの治療をして、最後に包帯を巻き終えてグズマの手を離そうとした。 けれど、ほんの少しの悪戯心が働いてしまった。 泣くことはなくなったが治療の様子を落ち込んだ態で見ていたグズマの掌にくちづけを落とす。 目を見開いたグズマに、俺はニヤリと笑った。 「早く治るようにおまじない、な?」 好意を素直に言えない変わりの行動だったが、赤面したグズマにバトルを吹っ掛けられることとなった。 [newpage] ~ おにぎり ~ 交番の簡易キッチンの前でクチナシはお昼のメニューに悩んでいた。 台の上にあるのは焼きのりのパック 5枚入り が1袋と梅干しが2個入った瓶、それに白身魚が辛子明太子がそれぞれ1切れずつ。 ご飯は昨日の夜に炊いていた分があったはず。 炊飯器の中を確認したが量も問題なし。 「まぁ、これだけあったら残り物も消費できんだろ。 」 腹も膨れるし、余れば夜に食べれば良い。 上着を脱ぎ、ソファへと放って棚から焼き魚用の網を取りだし、コンロに設置する。 火を付けて網の上に塩を軽く振った白身魚をセットして焼いていく。 本当は窓を開けたいが生憎、この交番は雨が常時降っている町の近くにあるため窓は開けられないし今日は土砂降りだった。 仕方ないので換気扇を回す。 その間に更に具になる物を皿に乗せ、海苔も袋から出し終えて準備完了。 水で少しだけ掌を濡らし、炊飯器にある米を杓文字で掬い手の上に乗せたあとは具材を包んでいく。 おにぎりなんて久しぶりに作ったが、握るときの感覚は案外忘れてないなと軽快に握っていく。 たまに白身魚の焼き具合を見ながらおにぎりを作成し、できあがったものを乗せた皿を机に持っていこうとしたタイミングでドアが開く音がした。 「おじさーん、遊びに来たよ~!」 よく知った明るい女の子の声が聞こえたので、衝立から顔を覗かせれば女の子の後ろにもう一人いた。 「おぅ、ちょうど良い時に来やがったな。 」 「…………うス。 」 「わりぃけど、これ運んでくれねぇかぃ。 」 「なにを~?」 「ほら、向こう持っていけ。 」 「わぁ、何これ?」 アローラ地方ではあまり見られないのか、おにぎりを知らないらしい二人は皿に乗っているものをマジマジと見ていた。 「おにぎりって言うんだよ。 そこ立ってないで早く持っていってくれ。 」 「何か手伝うか?」 「いや、もうすぐ作り終わるからソファにでも座っててくれ。 」 皿を持っていった二人を確認し、焼けた魚をほぐしてそれを残りのご飯に詰める。 ちょうど3つ作れそうだ。 最初に用意したおかずは使いきったので目的は達成。 自分一人で食べるには多く作りすぎた数だったが、客人も来たことだし今日中には食えるだろう。 まだ要るってんなら電子レンジで温めるご飯があった筈だし、大丈夫だとは思うが。 米の粘り気によってべたつく手を丁寧に洗って、タオルで拭いたあと、おにぎりを乗せた最後の皿を持っていく。 ソファに仲良く座っている客人がソワソワしているのを見て思わず、笑みが溢れる。 「落ち着きがねぇなぁ。 」 「だって、初めて食べるんだもん!」 「ただ、具を米で包み込んでるだけだぞ。 …あぁ、飲み物がねぇな。 確か、麦茶を買ってたような…」 「良いよ、自分で持ってきてるし、おっさん用にグランブルマウンテン買ってきてるからよ。 」 そう言って、二人が紙袋を掲げる。 受け取って中身を見ればマラサダとアマサダ2つの合計3つ、それにアセロラが持ってた袋にはエネココア アイス とモーモーミルクにグランブルマウンテンが入ってた。 「ということは最初っから俺んところで飯食う気だったってこったな。 」 「えへへ~! たまには皆で食べるのも良いと思ったけど、このおにぎりも食べたいなぁ。 」 「マラサダはすぐ食わねぇと駄目だろうが、こっちはラップして持って帰ったりできるからよ。 ま、好きなように食べればいいさ。 」 「うん!」 小さい頭をひとしきり撫でたあとは必然的に隣にいる大男の鳥の巣のような頭へと伸びた。 「お前もな、グズマ。 」 「…………おぅ。 」 「じゃあ、食うか。 」 「ん?」 「具って言ってたけど、何を入れたの?」 「梅干しと白身魚と辛子明太子。 あとはシンプルに塩むすびだな。 」 「何だ、それ?」 「知らねぇのか…。 」 「こっちでは聞かないものばっかりなんだもん。 」 「食えば分かるよ。 持って帰りたいなら包んでやる。 」 「じゃあ、私は辛子明太子と塩むすび!」 「俺は梅干しと白身魚と塩むすびがいい。 」 「了解。 」 言われた通りのおにぎりをラップに包んで持って帰らせたが翌日、辛子明太子の辛さと梅干しのあまりの酸っぱさに二人が交番へ抗議しに来たのはまた別のお話し。 [newpage] ~ 嫌い ~ 今日のポータウンもいつも通りの雨模様。 なのだが今日はいつもより湿度が高く、外の空気がじっとりとして重苦しい。 きっと不快指数も高いに違いない。 湿度が高い状態で雨なんて最悪の状況だろう。 扉を開けるだけで外の湿った風が入り込んでニャースたちも交番の奥に逃げ出した始末だった。 「…………雨はいつも通りだとしても、今日の湿度はおかしいよな。 」 なぁ、ペルシアンと声をかければにゃあんと一声。 外に用がなければ極力出掛けないクチナシだ。 今日は一日交番の中で過ごそうと思ってクーラーは交番に着いた時から点けていた。 だというのに、なんと午前中に食い逃げと迷子の捜索というめんどくさ………大変なお仕事が立て続けに起きた。 手持ちの力を借りつつ交番の冷えた室内に戻りたくて早急に終わらせたが案の定、汗が止まらないし自分の体力の無さは分かりきっているから体力の配分も考えていたのにフラフラだ。 重い空気が遠慮なく体に纏わりついてるような気がして、気持ちと共に足取りも同時に重くなるのは必然で。 よく交番に戻ってこれたと思う。 思い出してみれば朝に水を飲んだっきり胃に何も入れてない。 朝起きた時からのジトジトとした空気に食う気も失せていた。 昼飯ぐらいは食べねばと思いながら、交番へと戻った。 汗と雨で濡れた俺にニャースたちは一切、近寄ることはなかった。 ずぶ濡れのまま交番の奥にあるシャワールームに入り、水を出そうと手を伸ばしたが膝から力が抜けて視界がぐるり、と回りヤバいと思った時には遅かった。 目の前が真っ暗になった。 」 「そうだね、ポケモンたちも堪えてるみたいだよ。 」 「だろうな…」 ここはエーテルハウスの玄関前。 そこにはウラウラ島のキャプテンと四天王を勤めているアセロラとグズマが立ち話をしていた。 アセロラの手には大きな紙袋があった。 「それにしてもありがとね、グズマ。 マラサダ、くれて。 」 「別に………買いすぎただけだ。 」 「ふふっ、そっか。 」 アセロラと共に過ごしている子供たちとはクチナシとアセロラの手を借りながらも和解できた。 今はこうやって差し入れを持ってきてくれるようにもなった。 アセロラもグズマの根が優しいのを理解している島民の一人だ。 グズマがやって来ても嫌な顔などせず、むしろ友達のように接してくれる。 「ところで、この後はおじさんのところに行くの?」 「えっ」 「え?」 アセロラからの言葉に内心ドキリ、とした。 そんな様子をニヤリと笑って見上げてくるので視線を反らして弁解するが効かなかった。 「弁解したって駄目だからね。 今、グズマが持っている紙袋の大きさから見ておじさんのお昼ご飯も入ってるんでしょ?」 「…………まぁ、報告ついでに。 」 「素直じゃないなぁ。 」 うるせぇ、と言いながら頭を撫でる手つきは優しかった。 そんな二人の元にもの凄い早さで近寄ってきた物体に二人の顔が一瞬、強張ったがその正体を見て驚いた。 「ペルシアン…?」 全身ずぶ濡れで毛並みが酷く乱れている状態で、二人を鋭い視線で見ている。 …………アセロラ?」 「その、くわえてるのって………」 青ざめたアセロラがペルシアンの前で膝を折って、震える手を伸ばす。 ペルシアンはその手の上にくわえていたものを落とした。 「あくZ…………? …ってことは、お前っ…!」 「おじさんのペルシアンね?ねぇ、どうしてこれを…」 理由を聞くとペルシアンはひらり、と身を翻す。 それに即座に反応してペルシアンのあとを追ったのはグズマだ。 「グズマ!?」 「アセロラ!あとでぜってぇ連絡する! 待ってろっ!!」 そう言ってペルシアンを抱えあげリザードンの背中に飛び乗って 17番道路を目指した。 その音に驚いたニャースが数匹抗議の声をあげる中を颯爽と歩くペルシアンに続いて濡れたまま交番の中に進む。 ニャースたちが集まっている扉から光が伸びているのが分かり、群れを掻き分けて扉を開けるが飛び込んできた光景に度肝を抜かれてしまった。 「く、クチナシさんっ!?」 何とか扉をこじ開けて体をシャワールームに入れさせて、クチナシの体を抱き上げる。 自分の腕に力なく項垂れるクチナシに血の気が引いていった。 頬に手をやればかなりの熱を帯び、凭れている腕からも熱が伝わってくる。 いつもなら真っ白なはずの肌も赤くなり汗のせいか、かなり濡れていた。 呼吸が荒く、辛そうだ。 「クチナシさん、おいっ!聞こえるかっ!?」 頬を軽く叩いて意識を覚醒させようとすると、瞼が小さく動いたのが分かった。 頬を何度か撫でて様子を見ているとうっすらと目を開けたのを見て、とりあえずホッとした。 「…ぐ、ず…ま………?」 焦点のあってない瞳が天井を見上げ、ゆっくりと首を回して俺の姿を確認し、呂律が回らない口で俺の名を呼んだ。 「あぁ、俺だ。 シャワールームに酸い匂いが漂った。 「うっ、あ…グズ、…けほっ…!」 「病院に連絡するからちょっと待ってろ! ペルシアン、このシャワーヘッドをくわえててくれ!」 そう叫んで立ち上がるのと同時にペルシアンが入れ違いでシャワーヘッドをくわえて支えるのを横目に見て交番に備え付けられておる黒電で病院に連絡した。 倒れた理由は過労と今日の温度と湿気による熱中症と軽度の栄養失調とのことだが後日、詳しい検査を行うと医者が言っていた。 その事をアセロラや師匠にも電話で伝え、病室へと戻ってきた。 扉を開ければ、ベッドに横たわるクチナシの姿。 腕には輸液チューブが刺さっていた。 音を立てぬようにゆっくりと近付いて、ベッド脇にあった椅子に腰かける。 顔をみれば以前見たときよりも隈が濃くなったような気がして、睡眠不足も多少はあるのかもしれねぇな、と思った。 クチナシの手に自分の手を重ねて少しだけ俯く。 「…………熱中症は、まだ分かるとしてもよ、今日の天気、最悪だったしな…けど、何だよ、過労と栄養失調って…」 口に出して言うつもりはなかった。 なかったのに咄嗟に出てしまったのだ。 この人は、面倒くさいとか文句言いながらも関わったらキチンと最後まで関わって、世話してくれる。 島民に蔑まれてきた俺たちのことを気にかけてくれて、面倒をみてくれた人だった。 他人には気を使うし、変化に敏感なのに自分に関しては無頓着で無関心で、それで傷付いてもあっけらかんとしてて………俺はそれが酷く嫌だった。 もっと、自分を大切にしてほしいし、自分が傷付くことで悲しむ人が要ることを知ってほしい。 「………ま、どうせ言ったって聞かねぇんだろうけどさ。 」 重ねた手に少しだけ力を込めた。 そうだ、どうせ言っても伝わらないのだ、この人には。 困ったなぁ、ってボヤいて、苦笑いして、誤魔化してまた普段通りの生活になるに決まってるんだ。 でも、それじゃまた繰り返してしまう。 笑って誤魔化せば大丈夫だと思ってるようだが、それは間違いだ。 繰り返せば繰り返すほどに周りが傷付いているということを知らなければならないのに。 「なぁ、クチナシさん。 アンタにはアンタのやり方っつーモンがあるんだろうな。 それを変えろとは言わねぇよ。 けどっ…もっと、自分を大事にしてくれよっ…!」 気持ちが伝わらないのはとても悲しいことなんだ。 「俺、今日は凄いビビったんだぜ? エーテルハウスでアセロラと話していた時にアンタの手持ちのペルシアンが走ってきて…最初は何事かと驚いたけどよ…口にはおっさんのあくZくわえてたからアンタに何かあったってことが分かったから正直、助かった。 でも、シャワールームで倒れてるアンタ見たときは怖かった。 アンタが、死ぬんじゃねぇかって。 」 あのときは、俺の心臓が止まりかけた。 クチナシが、自分の前から居なくなるのではないか、と不安だった。 「結果的に今回は助かったけど、こんなこともう嫌だよ。 一人が無理なら誰かに頼ってくれよ、なに一人で背負うとしてんだよ、ふざけんな。 アンタはもう、根無し草なんかじゃ、ねぇんだからな。 」 そう呟いて、涙を拭こうと重ねた手を退かそうとすればゆるりと手を掴まれた。 驚いて視線をあげれば、優しく笑うクチナシと目があった。 「く、ちなしさん………!?」 「ん…何だよ…?」 「え、あ、よ、良かった…じゃなくて、起きてたのかっ!?」 「? いや、手に温かいのが乗ってたから何だろうかと思って。 」 お前の手は温かいなぁ、と手を握ってくるクチナシの手は体温が通常に戻りつつあるのか冷たくなっている。 額に手をやれば熱も下がっているようだ。 「熱も下がったようだな。 」 「あー………まぁ、頭痛はするけど怠さはだいぶ抜けたな。 助かったよ、グズマ。 」 「お、おぅ…」 額から頬を伝って首筋を撫でると、トクトクと確かな脈動を感じて安心した。 顔の血行もよくなってきている。 安心して顔が弛んだ時、フッと空気が抜けるような笑いが聞こえたので顔を上げればクチナシがいつもの顔でこっちを見ていた。 「こんな所で発情されても困るよ、おじさん。 」 「ばっ………! ち、ちげぇよ、何言ってんだ!!」 首筋から手を離し、思わず胸ぐらを掴んでしまった。 さすがに驚いたクチナシが降参のポーズをとる。 「分かった分かった。 悪かったって。 」 「…ったく、人がどれだけ心配したと思ってんだ。 それなのに、アンタはそうやって…」 「ゴメンな。 」 おじさんも年には敵わねぇな、とクチナシは笑いながら謝る。 謝るが、この人は"二度としない"とは決して言わないのだ。 「…………俺は、アンタのそういうところが嫌いだ。 」 「!」 「いつも一人で危険なことして、周りの人間が心配してるってのに平気な顔して、他人と関わりたくないとかほざいても、自分から人と関わってんじゃねえか。 」 「…………。 」 「何が根無し草だ。 そう言うなら倒れるまで人のために働いてんじゃねぇよ。 」 「…………グズマ。 」 「アンタ、本当は分かってんだろ?自分の周りにどれだけ自分が大切に思ってるヤツが居るかなんて。 」 「グズマ。 」 「このまま無茶していったら、アンタはまた失っ………」 「グズマっ!!!」 大きな声が病室内に響く。 クチナシの常とは違う声はビリビリと空気を震わせた。 それはやがて静寂を取り戻し、また静かな病室へと戻っていった。 クチナシが息を荒げ、グズマを鋭い眼光を光らせながら睨む。 「………なんだ、図星かよ。 」 「っ、うるせぇ…」 くしゃり、と自分の髪の毛を掴んで俯くクチナシを見て、グズマも折れそうになるがここで自分が引いたら、この人は。 人助けで命を削り続け、最後は死んでしまう。 椅子から腰を上げて大股で出口に行き、わざと大きな音を立てて扉を開ける。 クチナシの方を振り返り、作った笑顔で言ってやる。 「大っ嫌いだぜ、クチナシさん。 」 声が微かに震えた。 でも、言わなければ、という使命感にも似たそれに突き動かされてしまったのだ。 「…………うるせぇ、クソ餓鬼。 」 そんな言葉を耳にして、扉を静かに閉める。 俺が病室を離れてから医者と看護師たちがバタバタとクチナシの病室へと入っていくのを見た。 「……………。 」 薄暗い廊下を歩き、立ち止まる。 「………自分の思いだけを、ただ押し付けただけ…だよなぁ…」 失うなんて、最低な物言いだった。 俺はあの人にもっと自分を大切にしてほしかった。 ただそれだけだったのに、クチナシの瞳を見ていると今にも消えてしまいそうな儚さを感じてしまった。 あの人が国際警察だったことも過去に部下を失っていることもある人に聞いた。 きっとあの人は己が命よりも他の命を尊いものだと思っているからあんなに優しいのだ。 それがグズマには酷く我慢ならなかった。 怒りであのような事を言ってしまうぐらいに。 『このままじゃ、クチナシさんはいつか駄目になっちまう。 』 壁から手を離し、真剣な表情で血が滲んだ手を見つめる。 「…………けど、そうならないように俺らが護れば、いいんだよな…?」 そうだ、そうすればいいだけの話。 至極単純だ。 あの人が大人しく護られてくれるかは分からないし、煙たがりそうだが、それがなんだ。 「アンタが好き勝手するなら、こっちも好き勝手にやらせてもらえればいいだけだ。 」 まずは、アセロラにでも話をしに行くかと動かした足は、病室を出たときよりも軽かった。

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ポケモン サンムーン!クチナシおじさんを倒し、エーテルパラダイスへ

クチナシ おじさん

お品書き [jump:2] グズクチ:セクハラ [jump:3] ブルクチ:執着 [jump:4] クチミヅ:お子さま [jump:5] ハンクチ:レター [jump:6] したっぱクチ:猫 [jump:7] クチアセ:相棒 [newpage] グズクチ ちっちぇな。 呟きは、何とは無しに漏れていた。 「……なに」 何の感情も滲ませない声音で、赤い両眼が見上げてくる。 だいぶ、いやかなりその距離は近い。 何せグズマの胸元だ。 グズマは、無抵抗をいい事にこの男、クチナシを抱き寄せ、あまつさえベタベタ身体中まさぐっているのである。 なのにこの無表情ときた。 グズマの奇行も 妙な事をしてる自覚はある 、ニャースのじゃれつきとそう変わらないとでも思っているのか。 「…あんたの腕も、腹も、背中も、みんなちっちぇなって…思ってよ」 「……そりゃ、あんちゃんと比べりゃな」 グズマは、服の上越しとはいえ、それはもう熱心に背筋をなぞり、歳のわりに肉付きの薄い脇腹や腹筋を撫で、やりたい放題だ。 さすがにくすぐってぇよ、と一応の抗議を上げたものの耳を貸してくれる様子はない。 クチナシはふぅとため息をついた。 「おじさん確かにあんちゃんよか小せえかもしれねぇけど、そんなベタベタ触って楽しい身体でもねぇしよ。 こんな身体検査みたいな…コレ、まだ続くのか?」 「…うるせぇな。 俺が何しようが俺の自由だろうが」 グズマの手は肘下から撫でるように擦り上がり、半袖ジャケットの下まで潜り込んで二の腕を掴んだりなどしている。 面倒なので気の済むまで好きにさせておくつもりのクチナシだったが、無遠慮な手つきがシャツをまくり腰を直に触れ始めたのはいただけない。 妙にぬるい指先の温度にくすぐったさが相まり、クッと喉の奥が鳴ってピクリと肩が揺れた。 恐らくその反応に調子に乗ったであろうグズマが、背中まで侵入しようと手を伸ばす。 クチナシは反射的に腰が引けるも力強い腕が逃がしてくれない。 …本当にまた随分と。 「熱烈な事だねぇ。 人肌恋しいならこいつらと遊んどくかい?」 主の声に反応したニャース達が傍若無人な客人に飛びかかる。 顔面にのしかかり手足にぶら下がり、あまりの物量にクチナシから引き剥がされたグズマは床に背中からひっくり返された。 「いってぇ…!」 呻き声は、にゃあにゃあ騒ぐ鳴き声にかき消される。 その身体の上をぴょんぴょん跳ね、たまに顔面をざらりと舐め上げるニャース達。 その頭上で、己の腕をさすりながらやれやれと一息つく気配。 「ココアでいいかい、あんちゃん」 踵を返して遠ざかる足音にグズマは、顔に貼り付いた一匹をバリッと引き剥がしながら目で追った。 腕から逃した男の普段とそう変わりばえしない後ろ姿。 グズマは眼前に持ってきた掌を何度か握っては開き、先刻の感触を思い出しては顔をしかめた。 ちょっとは焦ったり、嫌がったり、ビビったり、しやがれってんだ。 胸中で悪態をついて歯がみして、そうしてクチナシの、頭をかく仕草に隠された耳元の赤らみに気づく事は、ない。 [newpage] ブルクチ ウラウラは変わり者だと、他の神達は囁いた。 人間の方ではない。 よそ者を選んだカプブルルの方だ。 島の人間ではない。 島の事を分かっていない。 神への畏敬が圧倒的に足りていない。 しかしブルルは自身の選定に自信と誇りを持っていた。 あのひどく泥くさい人間くささを。 世捨て人を気取っておきながら、目に映る人間もポケモンも見捨てられずに手を伸ばしてしまう。 己の傷跡も弱さも怖れも全て衣服の下に隠し、ただ周囲に尽くすかのような生き方。 何と愛おしい。 他の者は理解できずともよい。 知らずともよい。 命ある内はこの地に縛りつけてくれよう。 ああ、そうだ。 あれは己のものだ。 [newpage] クチミヅ 羨ましい、と思った。 その感情にどんな意味があるのかは自分でもよく分かっていなかった。 「うん?なにが〜?」 ソファに横並びに腰かけたアセロラに、ミヅキは、んん?と問い返した。 今、何の話をしていたっけ? 「いまミヅキ、いいなーって言ってたから、なになに〜って聞いたんだよ?」 まるでより小さな子供に接する時のように、丁寧に言い直してもらえる。 うっかり口からこぼれていたらしい。 目の前のローテーブルには暖かいミルクとココアが各々のマグカップから湯気をくゆらせている。 視界の端で、パイプ椅子をキィと軋ませ座るクチナシがコーヒーをすすった。 「……笑わないでね」 あまり変な感情が、混じらないように。 「クチナシさん、が、お父さんみたいでいいなぁって、思ったの」 へらりと笑ってアセロラを見ると、彼女はきょとんとした目つきで見返してきた。 誰が、誰の?と顔に書いてある。 「…………」 「…………あの」 「…………」 「アセロラちゃーん…?」 黙られた方は不安げな面持ちも隠さず相手の反応を伺うが、たっぷり10秒言葉を失った少女の胸中は嵐のようであった。 あー………それアセロラに言ってるのかなぁ言ってるよねぇ、ミヅキってばそういう方向で落ち着かせようとしてるのかなぁポケモン馬鹿だし自分の事にも鈍感そうだしなぁ、わざわざ気づかせてあげる必要もないっちゃないんだけど、あーーもうおじさんも完全に知らんぷり決めてるしズルいし、もう何でコレ拾っちゃったのアセロラのばかー ひととおり思う存分心の内でのたまった後は、腹をくくってミヅキにっこり笑い返した。 「ううん、こんなニャースおじさん、いつでも貰っていっちゃってー」 「……うん?」 「アセロラはあんまりオススメしないけどー、でもちゃんと手に職あるしー、退屈で飽きちゃうだろうけどー、よそに行っちゃう心配もないしー」 あえて、どうとでも取れる言い回しでミヅキの顔を赤くさせたりして、楽しい。 好き勝手言われている当の本人はどこ吹く風、猫じゃらしでニャースを遊ばせて聞こえない振り。 いや絶対聞こえてるし意味わかってるよね。 「ずるーいオトナだけどねー」 唇を尖らせてそう締めくくると、完璧無視を決め込むずるいオトナに代わり、アセロラに同意するように、にゃーおと鳴き声が続いた。 [newpage] ハンクチ いつも狙ったかのようにその封筒は、クチナシが見回りで留守をしている合間に交番に届く。 見慣れたイニシャルだけのサインを一瞬だけ目に留めると何の感慨もなくさっさと封を切る。 中からは"イッシュより"と丁寧な文字で綴られた小さな紙片と、紫色に鈍く輝く小さな石がころりと転がってきた。 「………やみのいしか」 今回はまともなものだったな、と胸中でこぼす。 この手紙の送り主は、不定期にこうして様々な地域から様々な贈り物を送りつけてくる。 クチナシから何か寄越した事はない。 イッシュには仕事で寄ったのだろう、既にもう発った可能性は高い。 相手の自宅など知らないし、その職場はクチナシにとって訳ありだ。 返しようもない。 返す気もないが。 この気まぐれような、思いつきのような手紙はどういうつもりなのか、分かってはいない。 尋ねる機会もない。 実の所あまり興味もない。 言いたい事があるなら直接来ればいい。 ただ、聞いてやるかどうかはまた別の話。 面倒事はごめんだ。 意味ありげに黙り込んだり目を伏せる男の顔が不本意にも脳裏に浮かび、クチナシは嫌そうに眉をひそめた。 「……アセロラにやるか」 冷たいのかあたたかいのかよく分からない不思議な石を手に握り、ため息をつきながら手紙をデスクの引き出しの中に積んだ。 [newpage] したっぱクチ クチちゃんは猫科なだけあって気難しく、クールで、シャイで、ツンデレだ。 冷めた目で一瞥されたかと思えば、気まぐれに寄ってきてくれる。 そんな、他者に媚びず、自由気ままに生きる様に、俺は完全に心惹かれ奪われている。 「…それ、ニャースの話?」 「もちろんッス!」 怪訝な顔のプルメリに、スカル団したっぱである俺はコクコクと力いっぱい頷いた。 「……まぁ、変に深入りしなきゃ何でもいいよ。 いやに惚れ込んでるようだけど」 「はいッス!何てったってクチちゃんは俺が朝は起こしに行ってるッス!朝弱いんで!」 「…」 「そんで寝起きは寝ぼけてるのかぼんやりしてて、いつもより触らせてくれるッス!」 「……」 「朝飯もほっとくと抜いちゃうんで、食べさせるッス!俺がいないとダメなんじゃないかって思わされて毎日嬉しいッス!」 「………」 したっぱのキラキラした顔を見ながら、どうしてもあの冴えないお巡りの姿で再生される朝のワンシーンに、プルメリは己が悪いのかと頭を痛めるのだった。 [newpage] クチアセ 「つい頼っちまう。 悪いな」 軽い調子で、でも彼にしては随分と優しさの感じられる声音。 ついで、ポンと頭を撫でる手の平。 「いいよ〜アセロラがんばるー」 両手を上げて応えると、頼もしいねぇと返ってくる。 うん、悪くない。 アセロラはにんまり笑った。 クチナシとは親子ほど年の差があって、実際知らない人からはそう間違われる事もある。 クチナシはめんどくさそうに訂正したり、しなかったり。 アセロラの方は笑顔で、違うよおじさんだよ〜と適当な事を言う。 親がわりだなんて、とんでもない。 クチナシこそアセロラがちゃんと見に来ないと、しまキングの仕事だって真面目にやってくれるのか怪しいものだ。 手がかかるのはどちらなのかと。 それでも悪くないと思えるのは、こうして彼から、親ほど歳が離れているというのに、まるで対等な立場で頼り頼られる関係でいられるからだと思う。 クチナシは大雑把に無茶振りしてくるようでいて、けして無理難題は言わない。 アセロラが出来るギリギリの線を見極めて頼ってくる。 それがたまらなく嬉しい。 多分、頭を撫でられ子供扱いされるのと同じくらい、好きだ。 「アセロラ、まだ子供でいたいな〜」 「…どうした。 何だったら、しまキングも代わってくれたっていいぞ」 「うーん、それもありかな〜」 「へえ…やる気なの」 意外そうな顔でクチナシが見下ろしてくる。 それはもちろん、とアセロラは口元を緩ませた。 「どうしてもお願いしますアセロラちゃん!って言ってきたらね」 「…おじさんを早く引退させてくれや、アセロラ」 「"ちゃん"」 「………そうだな」 残念ながら乗ってきてはくれないらしい。 それでもまあまあ満足だと、ニッと笑ってみせる。 時にはただの近所の子供、時には頼れるゴースト使いのアセロラちゃん! アセロラはこれからも、季節が巡って、背が伸びて、大人になって、それでもこうやってクチナシの隣で笑っていられたらいいなと、小さな子供のように願った。

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ポケモン サン&ムーン 第74話 感想|VS クチナシ/ルガルガン暴走【アニポケSM】

クチナシ おじさん

お品書き [jump:2] グズクチ:セクハラ [jump:3] ブルクチ:執着 [jump:4] クチミヅ:お子さま [jump:5] ハンクチ:レター [jump:6] したっぱクチ:猫 [jump:7] クチアセ:相棒 [newpage] グズクチ ちっちぇな。 呟きは、何とは無しに漏れていた。 「……なに」 何の感情も滲ませない声音で、赤い両眼が見上げてくる。 だいぶ、いやかなりその距離は近い。 何せグズマの胸元だ。 グズマは、無抵抗をいい事にこの男、クチナシを抱き寄せ、あまつさえベタベタ身体中まさぐっているのである。 なのにこの無表情ときた。 グズマの奇行も 妙な事をしてる自覚はある 、ニャースのじゃれつきとそう変わらないとでも思っているのか。 「…あんたの腕も、腹も、背中も、みんなちっちぇなって…思ってよ」 「……そりゃ、あんちゃんと比べりゃな」 グズマは、服の上越しとはいえ、それはもう熱心に背筋をなぞり、歳のわりに肉付きの薄い脇腹や腹筋を撫で、やりたい放題だ。 さすがにくすぐってぇよ、と一応の抗議を上げたものの耳を貸してくれる様子はない。 クチナシはふぅとため息をついた。 「おじさん確かにあんちゃんよか小せえかもしれねぇけど、そんなベタベタ触って楽しい身体でもねぇしよ。 こんな身体検査みたいな…コレ、まだ続くのか?」 「…うるせぇな。 俺が何しようが俺の自由だろうが」 グズマの手は肘下から撫でるように擦り上がり、半袖ジャケットの下まで潜り込んで二の腕を掴んだりなどしている。 面倒なので気の済むまで好きにさせておくつもりのクチナシだったが、無遠慮な手つきがシャツをまくり腰を直に触れ始めたのはいただけない。 妙にぬるい指先の温度にくすぐったさが相まり、クッと喉の奥が鳴ってピクリと肩が揺れた。 恐らくその反応に調子に乗ったであろうグズマが、背中まで侵入しようと手を伸ばす。 クチナシは反射的に腰が引けるも力強い腕が逃がしてくれない。 …本当にまた随分と。 「熱烈な事だねぇ。 人肌恋しいならこいつらと遊んどくかい?」 主の声に反応したニャース達が傍若無人な客人に飛びかかる。 顔面にのしかかり手足にぶら下がり、あまりの物量にクチナシから引き剥がされたグズマは床に背中からひっくり返された。 「いってぇ…!」 呻き声は、にゃあにゃあ騒ぐ鳴き声にかき消される。 その身体の上をぴょんぴょん跳ね、たまに顔面をざらりと舐め上げるニャース達。 その頭上で、己の腕をさすりながらやれやれと一息つく気配。 「ココアでいいかい、あんちゃん」 踵を返して遠ざかる足音にグズマは、顔に貼り付いた一匹をバリッと引き剥がしながら目で追った。 腕から逃した男の普段とそう変わりばえしない後ろ姿。 グズマは眼前に持ってきた掌を何度か握っては開き、先刻の感触を思い出しては顔をしかめた。 ちょっとは焦ったり、嫌がったり、ビビったり、しやがれってんだ。 胸中で悪態をついて歯がみして、そうしてクチナシの、頭をかく仕草に隠された耳元の赤らみに気づく事は、ない。 [newpage] ブルクチ ウラウラは変わり者だと、他の神達は囁いた。 人間の方ではない。 よそ者を選んだカプブルルの方だ。 島の人間ではない。 島の事を分かっていない。 神への畏敬が圧倒的に足りていない。 しかしブルルは自身の選定に自信と誇りを持っていた。 あのひどく泥くさい人間くささを。 世捨て人を気取っておきながら、目に映る人間もポケモンも見捨てられずに手を伸ばしてしまう。 己の傷跡も弱さも怖れも全て衣服の下に隠し、ただ周囲に尽くすかのような生き方。 何と愛おしい。 他の者は理解できずともよい。 知らずともよい。 命ある内はこの地に縛りつけてくれよう。 ああ、そうだ。 あれは己のものだ。 [newpage] クチミヅ 羨ましい、と思った。 その感情にどんな意味があるのかは自分でもよく分かっていなかった。 「うん?なにが〜?」 ソファに横並びに腰かけたアセロラに、ミヅキは、んん?と問い返した。 今、何の話をしていたっけ? 「いまミヅキ、いいなーって言ってたから、なになに〜って聞いたんだよ?」 まるでより小さな子供に接する時のように、丁寧に言い直してもらえる。 うっかり口からこぼれていたらしい。 目の前のローテーブルには暖かいミルクとココアが各々のマグカップから湯気をくゆらせている。 視界の端で、パイプ椅子をキィと軋ませ座るクチナシがコーヒーをすすった。 「……笑わないでね」 あまり変な感情が、混じらないように。 「クチナシさん、が、お父さんみたいでいいなぁって、思ったの」 へらりと笑ってアセロラを見ると、彼女はきょとんとした目つきで見返してきた。 誰が、誰の?と顔に書いてある。 「…………」 「…………あの」 「…………」 「アセロラちゃーん…?」 黙られた方は不安げな面持ちも隠さず相手の反応を伺うが、たっぷり10秒言葉を失った少女の胸中は嵐のようであった。 あー………それアセロラに言ってるのかなぁ言ってるよねぇ、ミヅキってばそういう方向で落ち着かせようとしてるのかなぁポケモン馬鹿だし自分の事にも鈍感そうだしなぁ、わざわざ気づかせてあげる必要もないっちゃないんだけど、あーーもうおじさんも完全に知らんぷり決めてるしズルいし、もう何でコレ拾っちゃったのアセロラのばかー ひととおり思う存分心の内でのたまった後は、腹をくくってミヅキにっこり笑い返した。 「ううん、こんなニャースおじさん、いつでも貰っていっちゃってー」 「……うん?」 「アセロラはあんまりオススメしないけどー、でもちゃんと手に職あるしー、退屈で飽きちゃうだろうけどー、よそに行っちゃう心配もないしー」 あえて、どうとでも取れる言い回しでミヅキの顔を赤くさせたりして、楽しい。 好き勝手言われている当の本人はどこ吹く風、猫じゃらしでニャースを遊ばせて聞こえない振り。 いや絶対聞こえてるし意味わかってるよね。 「ずるーいオトナだけどねー」 唇を尖らせてそう締めくくると、完璧無視を決め込むずるいオトナに代わり、アセロラに同意するように、にゃーおと鳴き声が続いた。 [newpage] ハンクチ いつも狙ったかのようにその封筒は、クチナシが見回りで留守をしている合間に交番に届く。 見慣れたイニシャルだけのサインを一瞬だけ目に留めると何の感慨もなくさっさと封を切る。 中からは"イッシュより"と丁寧な文字で綴られた小さな紙片と、紫色に鈍く輝く小さな石がころりと転がってきた。 「………やみのいしか」 今回はまともなものだったな、と胸中でこぼす。 この手紙の送り主は、不定期にこうして様々な地域から様々な贈り物を送りつけてくる。 クチナシから何か寄越した事はない。 イッシュには仕事で寄ったのだろう、既にもう発った可能性は高い。 相手の自宅など知らないし、その職場はクチナシにとって訳ありだ。 返しようもない。 返す気もないが。 この気まぐれような、思いつきのような手紙はどういうつもりなのか、分かってはいない。 尋ねる機会もない。 実の所あまり興味もない。 言いたい事があるなら直接来ればいい。 ただ、聞いてやるかどうかはまた別の話。 面倒事はごめんだ。 意味ありげに黙り込んだり目を伏せる男の顔が不本意にも脳裏に浮かび、クチナシは嫌そうに眉をひそめた。 「……アセロラにやるか」 冷たいのかあたたかいのかよく分からない不思議な石を手に握り、ため息をつきながら手紙をデスクの引き出しの中に積んだ。 [newpage] したっぱクチ クチちゃんは猫科なだけあって気難しく、クールで、シャイで、ツンデレだ。 冷めた目で一瞥されたかと思えば、気まぐれに寄ってきてくれる。 そんな、他者に媚びず、自由気ままに生きる様に、俺は完全に心惹かれ奪われている。 「…それ、ニャースの話?」 「もちろんッス!」 怪訝な顔のプルメリに、スカル団したっぱである俺はコクコクと力いっぱい頷いた。 「……まぁ、変に深入りしなきゃ何でもいいよ。 いやに惚れ込んでるようだけど」 「はいッス!何てったってクチちゃんは俺が朝は起こしに行ってるッス!朝弱いんで!」 「…」 「そんで寝起きは寝ぼけてるのかぼんやりしてて、いつもより触らせてくれるッス!」 「……」 「朝飯もほっとくと抜いちゃうんで、食べさせるッス!俺がいないとダメなんじゃないかって思わされて毎日嬉しいッス!」 「………」 したっぱのキラキラした顔を見ながら、どうしてもあの冴えないお巡りの姿で再生される朝のワンシーンに、プルメリは己が悪いのかと頭を痛めるのだった。 [newpage] クチアセ 「つい頼っちまう。 悪いな」 軽い調子で、でも彼にしては随分と優しさの感じられる声音。 ついで、ポンと頭を撫でる手の平。 「いいよ〜アセロラがんばるー」 両手を上げて応えると、頼もしいねぇと返ってくる。 うん、悪くない。 アセロラはにんまり笑った。 クチナシとは親子ほど年の差があって、実際知らない人からはそう間違われる事もある。 クチナシはめんどくさそうに訂正したり、しなかったり。 アセロラの方は笑顔で、違うよおじさんだよ〜と適当な事を言う。 親がわりだなんて、とんでもない。 クチナシこそアセロラがちゃんと見に来ないと、しまキングの仕事だって真面目にやってくれるのか怪しいものだ。 手がかかるのはどちらなのかと。 それでも悪くないと思えるのは、こうして彼から、親ほど歳が離れているというのに、まるで対等な立場で頼り頼られる関係でいられるからだと思う。 クチナシは大雑把に無茶振りしてくるようでいて、けして無理難題は言わない。 アセロラが出来るギリギリの線を見極めて頼ってくる。 それがたまらなく嬉しい。 多分、頭を撫でられ子供扱いされるのと同じくらい、好きだ。 「アセロラ、まだ子供でいたいな〜」 「…どうした。 何だったら、しまキングも代わってくれたっていいぞ」 「うーん、それもありかな〜」 「へえ…やる気なの」 意外そうな顔でクチナシが見下ろしてくる。 それはもちろん、とアセロラは口元を緩ませた。 「どうしてもお願いしますアセロラちゃん!って言ってきたらね」 「…おじさんを早く引退させてくれや、アセロラ」 「"ちゃん"」 「………そうだな」 残念ながら乗ってきてはくれないらしい。 それでもまあまあ満足だと、ニッと笑ってみせる。 時にはただの近所の子供、時には頼れるゴースト使いのアセロラちゃん! アセロラはこれからも、季節が巡って、背が伸びて、大人になって、それでもこうやってクチナシの隣で笑っていられたらいいなと、小さな子供のように願った。

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